御飯の炊き方百種(ごはんのたきかたひゃくしゅ)

はしがき
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小豆飯

  強飯[こわめし]の代用物と云っても好[よ]いのが小豆飯である。祝儀祝日等の際強飯の代りに炊く御飯で、通常の御飯の中へ小豆を入れて炊いたままである。

  此の御飯は強飯と同じく先づ初めに小豆を煮て、煮汁を取りおき其の汁にて水加減を成し、前に煮て置いた小豆を洗米に交ぜて塩を少し入れて、普通の御飯を炊くやうに仕懸ければ好[よ]い。小豆の割合は一割を通例とする。又これも大角豆[ささげ]の方が赤い色が好[よ]くなるとて、之れを用ふる方が多く成った

  又一法として白米一升五合に就て小豆一合、塩二匁の割合にて炊く。この炊き方は小豆を能[よ]く洗ひ笊[ざる]をあげておき、お釜へ水一升ほどを張りて火にかけ、少し釜に温度がついて中の水より湯気を発する時、洗ひある赤い小豆を入れる。斯[か]くして火を強い程度にて煮るうち、一二度も噴き上[あが]ったら更にまた二合ほどの水を加へて噴き上げさせる、此のとき再び二合ほどの水を加へてから、漸々[ぜんぜん]火加減を弱くし四五十分ほど煮る、小豆が能[よ]く軟かに煮えてから、白米を十分に磨いで笊にあげ、能[よ]く水を切って小豆を煮た釜の中に入れ、塩を二匁ほど掴[つか]み込み、能[よ]く能[よ]く掻き廻して再び火を焚[た]きつけるのである。斯[か]うして十分に噴き出した頃を見計[みはか]らひ、火を落して其侭[そのまま]に五六分間も蒸[む]らして置けば、小豆飯は出来るもので、それを飯櫃[めしびつ]に移し食すのである。

  何[いづ]れの炊き方にしても小豆飯は冷めるとボロボロするものだから、炊く時に其の心持[こころもち]で水加減をしなければ成らぬ、併[しか]し小豆に十分水分を含んで居る上に、水加減を手心[てごころ]したらグチャグチャの御飯が出来る虞[おそ] れもある、で、小豆なり大角豆[ささげ]なり米に対する一割のときは、仕懸け方は普通の御飯と同じ事と思へば大差がないのである。

▼強飯…お赤飯。
▼之れを用ふる方が多く成った…小豆はあんまり使っていない、というのはお赤飯に同じ。
校註●莱莉垣桜文(2010) こっとんきゃんでい