鮨をこしらへるには、白米の上等を選び御飯も硬目[こわめ]に炊くのである。
御飯が出来てうつす時に、一升の御飯ならば酢二勺に砂糖一匙[さじ]、塩一摘[つま]みを加味し、之れを御飯に交ぜるのであるが、其の交ぜる時に御飯の温[ぬく]みを早く冷[さま]さないと味が悪い。で側[そば]から団扇[うちわ]などで煽[あふ]ぎ、酢を交ぜながら御飯を冷ますが好[よ]い。酢を交ぜて早く冷[さま]さないと御飯がグチャグチャに成るからである。
五目鮨をこしらへるには、酢を混[まぜ]た御飯へ種々[いろいろ]の材料を入れるのだが、是非入れなければ成らぬものは、干瓢[かんぺう]、椎茸[しいたけ]にて蓮[はす]、▼湯皮[ゆば]、人参、▼すだれ麩[ふ]等である。五目と云へど強[あなが]ち五色[いろ]と限ったもので無い。其[その]材料をそれぞれ煮ておく、煮方も種々[いろいろ]あるが余り辛[から]きは宜しくない。之れを万遍なくまぜて紅生薑[べにしゃうが]を細[こま]かに刻みて添へる。
海苔巻鮨[のりまきずし]は酢の入った御飯を、海苔を一寸[ちょっ]と▼火取[ひど]って、▼簾[すだれ]を俎板[まないた]の上におき、其の上に海苔を一枚半を並べ、凡[およ]そ全面の八分[ぶ]通りに御飯を薄くムラのないやうに並べ、其の上に干瓢や椎茸やその他の材料を並べ、端から巻くのである、之れは▼伊達巻[だてまき]の方であって、彼[か]の▼鉄砲巻[てっぽうまき]といふのは海苔を半枚に切り、それを横におきて御飯を展[なら]べ、干瓢の煮たのを一種入れて細くまくのである。庖丁で切るときは紙に酢を浸しおき、度々[たびたび]庖丁に潤[しめ]りをくれないと、お鮨の切口が汚らしくなるものである。
この外[ほか]鮨には握りや種々[いろいろ]のものがあるが、家庭で手軽に造ることの出来るは先づこの二種である。