御飯の炊き方百種(ごはんのたきかたひゃくしゅ)

はしがき
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鰻飯

  鰻飯は飯類中で一番甘[うま]いと称されてゐるだけ、亦一番滋養の価値あるものである。鰻は脂肪分に富み、東京でも大阪でも中々賞美される。先[ま]づ中串[ちうぐし](鰻の中位のもの)の鰻を割[さ]き(割き方は一寸[ちょっと]素人[しろうと]には出来ぬ)て強き火にい炙[あぶ]りたれ(濃き砂糖醤油―時にはを入れる)をつけて更に二三回照焼[てりやき]にし汁[つゆ]を多いめにつけて、炊きたての御飯を、丼鉢[どんぶりばち]か或[あるひ]は重箱に盛り、其上[そのうへ]に焼きたての鰻をおき並べ、充分蓋をなして幾分汁[つゆ]の御飯にしむ加減に喰[しょく]す。御飯は少し硬[こわ]めに炊く。また鰻は中位のもの一番美味[うま]く、大きなもの、小さなものはあまり感心せぬ。鰻飯は中々贅沢な食物[くひもの]で、安価生活の人々にはちと不向[ふむき]だが、時には胃の腑へもこんな美味なものを入れぬと人間もだめである。

▼飴…みずあめ。今でもたれなどを作るときにざらめを入れたりするのと同様。
▼安価生活…おさいふの大きくない家庭。
校註●莱莉垣桜文(2010) こっとんきゃんでい