一
此書[このしょ]は▼昨年の四月より同じき五月にわたれる読売新聞紙上に、「渡世[とせい]のいろいろ」と題して連載したりし記事三十五篇ほどありしに基[もとづ]き、そを訂正の上[うえ]新[あらた]に後半三十有余篇の稿を補[おぎな]ひ、標題をさへ改めて斯[か]く一部と為[な]したるものなり。
一
書中記せる各商の状況、或は詳細なるあり、或は稍[やや]簡明なるものありて其[その]体裁一ならずと雖[いへど]も、何[いづ]れも経験ある営業者の談話によらざる処[ところ]なければ、▼江湖[こうこ]此書により多少稗益する処あるべきは素[もと]より疑はず。
一
本書挿入の考古画は▼清水晴風[しみずせいふう]翁の手に成りたるもの、本文読過の際各商昔時[せきじ]の風俗を知るの一助たるべし。
著者 識