御飯の炊き方百種(ごはんのたきかたひゃくしゅ)

はしがき
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豆滓飯

  豆滓とは大豆の品質の良い物を選取[えりど]った屑豆[くづまめ]で、屑[くづ]即ち滓[かす]であるのだ。普通の大豆白い豆でも黒豆でもよいが、なかには虫喰ひや半欠けなども交ぢってゐる。豆を煮てそれを御飯の中へ割込んで炊きあげるのが即ち豆滓飯である。

  初め屑豆の中から土や砂利などを撰[えら]み、之れを火にかけてグタグタグタグタ煮て軟かにする。丁度小豆飯[あづきめし]を炊くときに小豆を前方[まへかた]に煮て置くのと同じ遣り方である。矢張り小豆を煮るのと同じ格で、煮汁を数々[しばしば]取るも好[よ]いが、此の方は色に関係が無いのであるから、只だ豆を能[よ]く煮ておくだけの事である。其の煮えた豆を洗米に掻き交ぜて炊くのであるが、仕懸け方等は左の如くである。

一、米は普通に磨ぎて笊[ざる]にあげおき十分に切る、豆は前日か若[も]しくは御飯を炊く前に煮る。

二、釜に仕懸けるには煮た豆と米を入れ、水加減は一升の御飯ならば七合の米に豆三合、乃至[ないし]六合の米に豆四合位の割合にせねば豆飯[まめめし]を経済的に食するに合理せぬ。

三、水加減は硬い軟[やはらか]いに依って多少違うが、一升の原量に就て一升にては少し多いやうである。豆の水分の含み方にも依るが、先づ一升の原量に九合位の水にてよろしいのである。

四、腐敗し易い御飯であるから、夏季は成るべく人数[にんず]に割当てた枡目で炊くが好[よ]い。御飯を炊くには何[いづ]れも夫[そ]れに違ひないが、豆飯は一層それに注意を払はねばならぬ。この腐敗を防ぐは例の酢が一番好[よ]い。分量は矢張り一升に対して三勺位、斯[か]くすると翌朝位までは何様[どんな]真夏でも保つのである。

▼品質の良い物を選取った…規格外のものをはじく。
校註●莱莉垣桜文(2010) こっとんきゃんでい