御飯の炊き方百種(ごはんのたきかたひゃくしゅ)

はしがき
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粥

  お粥[かゆ]といふと病人の喰[た]べるもののやうに思はれるが、健全な人の朝飯に用ふるが適当して居る。お粥腹[かゆばら]などと賤[いや]しむ風があれど、其の意を得ない言葉であるのだ。

▼お粥腹…おかゆは食べてもすぐに腹が減るという言い草。

白粥

  急な時は御飯から煮るが、其の味が良くない。お粥は矢張り米から煮たものでないと美味[おいし]く無いのだ。白粥[しらかゆ]を拵[こしら]へるには米二合に水一升ほどの割合で、塩を一摘[ひとつま]み入れ文火[とろび]で気長にグツグツと煮るに限る。容器は能[よ]く蒸れるやうに深く厚い鉄鍋か、或ひは重い土鍋の行平[ゆきひら]で煮るが好[よ]い。

▼行平…取っ手と注ぎ口がある土鍋。行平鍋。おかゆなどわつくる時によく使われていました。

炒米の粥

  白粥より香味があって美味[おいし]いのは炒米[いりごめ]の粥である。之れは一旦お米を洗ひ乾かして、焙烙[ほうろく]にて能[よ]く炒り、少し塩を加へて水から気長に文火[とろび]に掛けて煮るのだ。米と水の割は白粥に同じことで好[よ]い。お粥に成っても米が軽くサラサラして居るから、早く胃中[いちう]を去って胃を疲れさせないで、胃弱[いじゃく]の人には適して居る。玄米を炒ったものであると、一層軽くて好[よ]い。

▼胃弱…消化の力の弱いひと。

玄米の粥

  玄米を洗ひ水に浸しおいて、其の浸した水で翌朝米二合に水一升ほどの割合にて、塩を一摘[ひとつま]み入れて煮るのである。余り美味[おいし]いとは云はれないが消化は極めて良く、胃の病[やまひ]ある人には最も好[よ]いのだ。

茶粥

  茶粥は古く京都などに行[おこな]はれてゐるが、之れは前日の煎じ出したものの茶殻[ちゃがら]を、また煎じた汁で粥を煮るのだから、余り感心したものでないが、茶粥のこしらへ方は、能[よ]く炮[ほう]じた番茶を袋に入れ、水にて能[よ]く煎じ出して一旦その袋を出[いだ]し、其の跡[あと]の茶汁にお米を入れ長く煮て、出来あがる際に塩を少し入れ味をつけるのだ。茶汁と米の割合は前とおなどことである。猶[なほ]この煮える半[なかば]に薩摩芋を細[こまか]に切って入れると一層味を好[よ]くするのだ。

芋粥

  白粥の少し煮えた処へ、薄く輪切[わぎり]にして薩摩芋を入[いれ]るのである。芋は良い品を選んで輪切にしたら、直ぐ水に放[はな]してアクを出さないと、お粥の色が悪くなって渋味[しぶみ]の出る虞[おそ]れがある。芋の甘味がお粥に出て好[よ]いものである。

スープ粥

  スープにてお粥をこしらへるのだ、経済的に拵[こしら]へるには鳥の骨を買って来て、之れよりスープを取り、普通のお粥と同じ割合で米二合をスープ一升で、グツグツ煮るのであるが、炒米[いりごめ]にすると一層香味もあり軽くて味が好[よ]いものである。

▼水に放して…水の中にぶっこむ。
校註●莱莉垣桜文(2010) こっとんきゃんでい