御飯の炊き方百種(ごはんのたきかたひゃくしゅ)

はしがき
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鰯飯

  鰯飯の炊き方には種々[いろいろ]あるが、此処[こち]に云ふのは京阪流[かみがたりう]の炊き方である。これは経済的であるばかりでなく、至極[しごく]美味なものである。材料の分量は、白米一升について、水一升、鰯適量、煮出汁[にだし]適量、生酒[きざけ]少量、醤油少量の割合とする。その炊き方は、成るべく新鮮[あたら]しい鰯を選んで、頭を取去[とりさ]り、腹をあけて腸[わた]を除き、きれいに水洗[みづあらひ]して、後に水気[すゐき]をきって置く。それから之[これ]を三枚におろして、腹部[うすみ]を去り、御飯が炊けかかって火を引かうとする時に、前の鰯をその上に載せて蓋[ふた]をし、そのままにして置いて、御飯が炊きあがつたら鰯を取出[とりだ]し御飯を蒸して、それから鰯をこまかくむしって、御飯がよく蒸さった頃を見はかって、鰯をその中へまぜ込み、その後[のち]に御飯を飯櫃[おはち]に移すのである。

▼水気…みずけ。
▼蒸さった…「蒸された」の江戸なまり。
校註●莱莉垣桜文(2010) こっとんきゃんでい