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世帯平記雑具噺(せたいへいきがらくたばなし)上のまき

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上のまき

[それ]世帯平記[せたいへいき]濫觴[らんじょう]は、雑具[がらくた]の国台所、唐人[とうじん]の寐言を引いて一葉の白紙[しらかみ]に毛鑓[けやり]の筆を染め、痩せ馬の机に凭[もた]れて綴りし知恵も浅草の傍[かたわ]らに、世の風流を好むうんつく孫左衛門と言ふ者あり、或夜[あるよ]台所に夥[おびただ]しき物音すると覚[おぼ]へ、何やらんと孫左衛門、夜着[よぎ]の袖より是を見るに、

▼世帯平記…世帯と太平記のしゃれ。
▼濫觴…はじまり。
▼唐人の寐言…ちんぷんかんぷん意味不明な言葉というイミ。ぱぁぱぁ。
▼うんつく孫左衛門…仮の名前によく使われる名前。
▼夜着…ねまき。

[へっつい]の上より何か落つると見へしが、布巾[ふきん]の白幡[しらはた]をひるがへし、竃山[へっついざん]の領主、釜冠者炊安[かまのかじゃ たきやす]と号[なの]り、鍋貞任底炭[なべのさだとう そこずみ]を始めとして、一味の物を集め、板の間ヶ原[いたのまがはら]へと押し出し、釜冠者、進出[すすみい]で、座敷道具の奴輩[やつばら]われわれを勝手道具と侮[あなど]り、人間を養ふ器[うつわ]を知らず、故に座敷方[がた]を討ち潰すべし」と言ひければ、面々もっともなりと組下[くみした]下知[げじ]をなす、ときに行灯美濃守張糊[あんどうみののかみ はるのり]は、「昼は勝手にありといへども夜は座敷方へも交はる事なれば、聞き捨てになりがたし」と家臣、油注信[あぶら つぎのぶ]を以て座敷方へ内通す、何やらんと座敷方の大将、戸棚中納言長持[とだなのちゅうなごん ながもち]の長男、重箪笥之輔為塗[かさねたんすのすけ ためぬり]進出[すすみい]で、内通の趣意[おもむき]聞くよりも、「小賢[こざか]しき雑具[がらくた]ども、攻め来たるを幸ひに討ち滅ぼし、うっぷんを晴らさん」と勢を集めけり、先づ一番に算盤主計頭玉成[そろばんかぞえのかみ たまなり]店川[みせがわ]より馳せ来たり、二階と合体せば事むづかしとて柱を引きければ、 二階の諸道具雑具[がらくた]叩歯[はがみ]をなして上がり口へと控へたり、

▼竃…かまど。
▼釜冠者…蒲冠者(かばのかじゃ)の地口。蒲冠者は源範頼のこと。
▼鍋貞任底炭…安倍貞任(あべのさだとう)の地口。
▼座敷道具…居間などにある道具調度。
▼勝手道具…台所などにある道具調度。
▼組下…配下の武士達。
▼下知…命令。
▼行灯美濃守…「美濃守」は「美濃紙」の地口。あんどんに張ってある和紙。
▼油注信…佐藤継信(さとうつぐのぶ)の地口。佐藤忠信のあにじゃびと。
▼みせ川…そろばんのある場所だから「店側」というしゃれ。
▼二階と合体…二階にある道具たちが加勢する事態。
▼叩歯…ギリギリとくやしがる。

此時、勝手方の先陣の大将は 竹田信玄弁当[たけだ しんげんべんとう]後胤[こういん]食篭弁当[じきろうべんとう]そのころ名高き香の物、しおから衣[ころも]の陣羽織、その装備[いでたち]も華やかなり、あとに続くは今戸山七厘寺[いまどさん しちりんじ]土瓶法師[どびんほうし]にて、錦手[にしきで]の陣羽織に、南京焼きの甲鉢巻[かぶとはちまき]を締め、長き口の駒に打ち乗ったり、組下には皿野八郎[さらのはちろう]丼満祐[どんぶりみつすけ]茶碗五郎八[ちゃわんのごろはち]各々[おのおの]刀や太刀をさしみ皿、われもわれもと馳せ来たる、中陣[ちゅうじん]の大将は流台[ながし]の城主備前弥吉[びぜん やきち]が水瓶[みずがめ]米磨桶[こめかしおけ]皮の大鎧[おおよろい]、敵の真向[まっこう]桐柄杓[きりびしゃく]の指物[さしもの]なしたるさるぼうと言ふ棒を小脇に掻込[かいこ]み出立[いでたっ]たり、組下には四斗樽右衛門箍切[しとたるえもん たがきれ]底抜小桶蔵人[そこぬけこおけのくらんど]小盥半盥[こだらい はんぞう]、いづれも向ふみづ桶の、弓のつるべを引きしぼり、荷担[にない]をかためんと待ち受けたり、後陣[ごじん]は文福茶釜判官煮高[ぶんぶくちゃがまのはんがん にえたか]茶柄杓[ちゃびしゃく]二十匁[め]がけの筒茶碗[つつちゃわん]を小脇に掻込み、煮高[にえたか]組下には、火箸坊掻尊[ひばしぼうかいそん]鉄弓入道[てっきゅうにゅうどう]火吹竹八[ひふき たけはち]十能祐成[じゅうのう すけなり]火打の苛八[ひうちのいらはち]はがねの鎌槍[かまやり]を引っ提げ、石火矢[いしびや]に下知をなす、

▼竹田信玄弁当…武田信玄入道(たけだしんげんにゅうどう)の地口。
▼後胤…子孫。
▼食篭…たべものを入れておく丸い塗り物などで出来た器。
▼今戸山七厘寺…江戸の今戸で「しちりん」が多く生産されていたところからつけられた山号。
▼錦手…紅や藍でいろどった焼き物。
▼長き口の駒…土瓶だからくちが長いの。
▼茶碗五郎八…「ごろはち茶碗」から。ごはんなどを盛る大きめのどんぶり
▼刀や太刀をさしみ皿…「さしはさみ」の地口。
▼流台の城主…「長門の城主」の地口。
▼備前弥吉…「備前焼」の地口。流しの必需品だった水瓶の多くは備前製でした。
▼米磨桶…お米をとぐときに使う桶。これに鎧の桶皮胴をかけたしゃれ。
▼向ふみづ桶…「向う見ず」のしゃれ。
▼弓のつるべ…「弓の弦」と「釣瓶」のしゃれ。
▼荷担…「荷担」と「そなえ」のしゃれ。「にない」は荷担桶(天秤棒などでかつぐ桶)のコト。
▼火箸坊掻尊…常陸坊海尊(ひたちぼうかいそん)の地口。
▼鉄弓…魚を焼くときに使う鉄の網。
▼火吹竹…火をおこすときに息を吹き込むためにつかう竹筒。
▼十能祐成…曽我十郎祐成(そがのじゅうろうすけなり)の地口。十能は火のついた炭を持ち運びする道具。
▼火打…火打ち石。
▼はがねの鎌槍…鎌槍(穂先が鎌のようになってる槍)と火打ち鎌(火打ち金のこと)をあわせたもの。
▼石火矢…火器。大砲。

遊軍として俵兵太夫米成[たわらひょうだゆう こめなり]は、ぽんぽち打ったる兜に、唐臼[からうす]織りの陣羽織、むかし取ったる杵柄[きねつか]の大太刀、千石通しの大身[おおみ]の槍、米舂毛[こめつきげ]の荒馬に打ち乗って、味方のこぬかと待つ間もなく、小米山[こごめさん]三陀羅法師[さんだらほうし]弦掛升之介[つるかけますのすけ]日光膳之介[にっこうぜんのすけ]会津椀八[あいづのわんはち]丸盆久次[まるぼんきゅうじ]箸野一膳[はしのいちぜん]など来たるなり、

▼ぽんぽち…ふるくなったお米。
▼唐臼織り…「唐臼」と「薄織り」のしゃれ。唐臼は精米につかう臼。
▼千石通し…ぬかと米とを分別する機械。
▼米舂毛…「米舂き」と「月毛」のしゃれ。
▼三陀羅法師…「さんだらぼっち」の地口。たわらのふた。
▼弦掛升之介…弦掛升は、枡にななめに針金などが張ってあるもの。
▼日光膳…日光の特産品である塗り膳から。
▼会津椀…会津塗のお椀から。

惣大将[そうだいしょう]釜冠者炊安は、鉄色の陣羽織に銅壷[どうこ]の蓋の前立物[まえだてもの]、青銅[からかね]つくりの大太刀を横たへ、五徳の駒に打ち乗ったり、つき従ふ面々には、鍋貞任[なべのさだとう]薄刃季武[うすばのすえたけ]庖丁貞光[ほうちょうさだみつ]銅鍋綱[あかなべのつな]浅倉山椒介入道擂粉木[あさくらさんしょのすけ にゅうどうすりこぎ]擂鉢前司成安[すりばちのぜんじなりやす]切匕次郎片連[せっかいじろう かたつら]ささら三八[ささらさんぱち]を始め、味方は三万余騎、一丁身[み]をば堅木[かたぎ]と堅め、雑器[ぞうき]にあらで雑兵[ぞうひょう]などまで敵をいまやと待つ、薪野焚付[まきのたきつけ]駆けつけ相加[あいくわわ]る、えんの下より加勢として、下駄左衛門政行[げたのさえもん まさつら]駒下駄[こまげた]の手綱ひきしめ小脇に掻込み、長刀[なぎなた]なりの革草履[かわぞうり]、足駄三郎[あしださぶろう]雪駄四郎[せったしろう]草鞋介紐永[わらんじのすけ ひもなが]を始め、百万力の鼻緒[はなお]勢、腰兵糧[こしびょうろう]には冷や飯草履[ひやめしぞうり]、蛇目[じゃのめ]の馬には唐傘六郎[からかさろくろう]夕太刀[ゆうだち]の鞘[さや]抜き放し、馬の背分けんと一度にどっかと押し出[いだ]す、

▼銅壷…灰の中にくべておいて、お湯などをわかしたりする容器。
▼薄刃季武…卜部季武(うらべのすえたけ)の地口。
▼庖丁貞光…碓井貞光(うすいのさだみつ)の地口。
▼銅鍋綱…渡辺綱(わたなべのつな)の地口。
▼山椒介入道擂粉木…さんしょうの木から、すりこぎを作るので。
▼切匕…すり鉢の中身を取るさじ。
▼ささら…竹を細かく割って作ったもの。たわしみたいに使います。
▼下駄左衛門政行…「まさつら」は、下駄につかわれる材質「まさ」から。
▼長刀なり…そっくり返ってしまっているぞうり。
▼雪駄四郎…仁田四郎(にったしろう)の地口。
▼腰兵糧…お腰につけた携帯兵糧。
▼冷や飯草履…つくりの悪い、安い草履。
▼唐傘六郎…かさの部品「ろくろ」から。
▼夕太刀…「夕立」と「太刀」のしゃれ。
▼馬の背分けん…突然の夕立を示すことばのひとつ。

座敷方には火燵櫓[こたつやぐら]に馳せのぼり、根付[ねつけ]の望遠鏡[とおめがね]を取出[とりいだ]し、寄せ来る勢を見なんも、灰吹太郎[はいふきたろう]吹殻[ふきがら]の烽火[のろし]をあげ、鉄砲組に煙管蔵人[きせるのくらんど]雁首[がんくび]の弾を込め、吸口薬[すいくちくすり]の用意して、味方の合図を待ち受けたり、先陣の大将、高島硯之介石政[たかしますずりのすけ いしまさ]が装備[いでたち]は、文鎮[ぶんちん]の兜に筆立[ふでたて]の指物、孔雀の羽の陣羽織、千枚通しの大身の槍、筆の命毛つづくだけ刺刀[さすが]の斬れ味みせんとて、馬は名に負ふ磨墨[するすみ]の手綱[たづな]掻繰[かいく]ぶんまわし卦算[けさん]と名付けし金[こがね]の棒を、小脇に掻込み出立[いでたっ]たり、続いて大福帳右衛門[だいふくちょうえもん]糶帳[せりちょう]を腰につけ机の馬に乗って、敵をくるりと巻紙[まきがみ]して、胴切り或いは半切りの、功名せんと乗出[のりいだ]す、組下には、小遣帳蔵[こづかいちょうぞう]万覚帳太郎[よろずおぼえちょうたろう]秤与市[はかりのよいち]、中陣[ちゅうじん]書物勢の大将、武鑑太夫厚綴[ぶかんのたゆうあつとじ]は、徒然草[つれづれぐさ]の鎧に八十貫目の三才図会[さんさいずえ]を小脇に掻込み、江戸砂子[えどすなご]の鞍[くら]置いたる駒に乗り、四書五経丸[ししょごきょうまる]今川仲秋[いまがわなかあき]百人一首を左右に随がへ、ひら一散[いっさん]に乗出[のりいだ]す、後陣[ごじん]の大将、古表具守裂成[ふるひょうぐのかみ きれなり]、活け花の前立物[まえだてもの]、獅子口[ししぐち]の駒に乗り、寸胴切[ずんどぎり]と名付けたる遠州流の槍を横たへ、弓手[ゆんで]には碁盤忠信[ごばんただのぶ]四ッ目ごろしの大太刀を横たへ、敵を押さへて斬って高名[こうみょう]せんと、手ぐすね引いて出立[いでたっ]たり、馬手[めで]には将棋判官[しょうぎのはんがん]香車の槍に桂馬の手綱、飛車先の歩[ふ]を突き止めんと、角みち開いて乗出[のりいだ]す、

▼灰吹…たばこ盆に入ってる竹などで出来た筒。灰皿の役目。
▼吹殻…たばこの吸殻。
▼雁首…金属で出来ているきせるの先っちょ。取り外し可。
▼孔雀の羽…立派な先生の筆立ての中に大抵おったっていた品。
▼刺刀…刀に付属してる小刀。
▼ぶんまわし…振り回す「ぶんまわし」とコンパスの「ぶんまわし」のしゃれ。
▼卦算…文鎮の別名。うらないをするときに使う「算木」にかたちが似てるから。
▼糶帳…仕入れ帳簿。
▼万覚帳…メモ帳。
▼武鑑太夫厚綴…無冠太夫敦盛(むかんのたゆうあつもり)の地口。『武鑑』は大名家旗本家の公式情報が載っている本。江戸から明治にかけて出版されつづけていました。
▼徒然草…兼好法師の随筆。
▼三才図会…寺島良庵が編集した百科図鑑。『和漢三才図会』
▼江戸砂子…菊岡沾涼が編集した江戸とその近郊の地誌書。鞍に使われる砂子塗りからの連想。
▼四書五経丸…漢学の必須「四書五経」から。
▼今川仲秋 習字のお手本として広く使われてた『今川状』から。今川仲秋は『今川状』を今川了俊から受け取った人の名。
▼碁盤忠信…佐藤忠信(さとうただのぶ)が碁盤の立ち回りで有名なのところから。
▼四ッ目殺し…碁の手の呼び名のひとつ。

遊軍として肥前入道徳利斎[ひぜんにゅうどう とくりさい]金の小粒の指物なし、盃毛[さかづきげ]の駒に金蒔絵の鞍置いて、呑出[のみだし]たるその勢ひ、唐[もろこし]関羽[かんう]にあらで、冷や酒の銚子[ちょうし]も斯くやと知られたり、二番には三味前司糸道[しゃみのぜんじ いとみち]花梨胴[かりんどう]の鎧、八ッ乳[やつち]の革の腹巻し、象牙の撥[ばちのあたりを払ひ胡弓[こきゅう]の弓を横たへたり、 続いて調六弥太琴爪[しらべのろくやた ことづめ]琵琶弥四郎[びわのやしろう]太鼓どん五郎[たいこどんごろう]よぶこの笛を懐中なし、 鯨波[とき]に取り手の修羅鼓[せめつづみ]ぽんぽんと打ち鳴らし馳せ来る、

▼肥前入道徳利斎…肥前焼の徳利から。肥前焼は有田焼、伊万里焼などの総称。
▼盃毛…「さかずき」と「月毛」のしゃれ。
▼関羽…「関」と「燗」のしゃれ。
▼花梨胴…しゃみせんの胴が「かりん」から出来ているので。
▼八ッ乳の革…しゃみせんの上等な胴革。
▼調六弥太…岡部六弥太(おかべのろくやた)の地口。
▼修羅鼓…能で武将の亡霊などが出て来る時につかわれるお囃子。

惣大将、重箪笥守為塗は、そのころ富裕の天下一、鏡を打ったる前立物[まえたてもの]幌蚊帳[ほろかや]かけてさっくと着[ちゃく]し、馬は名に負ふ縮[ちぢみ]手綱[たづな]染めの扱[しごき]引き締め乗出[のりいだ]す、

中のまきへ

▼幌蚊帳…「ほろ」のようになってる子供用の折りたたみ式の蚊帳。
▼手綱染め…紅白や紫白など二色の太い斜め線を交互に染め出したもの。そめわけたづな。
校註●莱莉垣桜文(2010) こっとんきゃんでい