御飯の炊き方百種(ごはんのたきかたひゃくしゅ)

はしがき
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松茸飯

  新しくて無疵[むきず]の茎[くき]の堅い肉の厚い上等の松茸を選んで、之[これ]を程よく短冊に切って、毒虫[どくむし]を殺す為に一旦塩水の中へ漬けて置く。それから松茸を取出して、薄醤油に少しの砂糖を加へた汁で、余り甘くないやうにさっと煮る。材料の分量は、白米一升五合、松茸百匁、味醂五勺、醤油五勺、酒五勺の割合とし、その炊き方は、幾らかこわめに火を強くして飯を炊き、御飯が噴きあげた時に、松茸をその中に投げこんで、いつもより蒸らし方を長くして置くと、松茸の香気が無くならないで味が好[よ]い。それから御飯をお釜から移す時にもよく松茸をかきまぜなければならぬ。松茸の毒消しとして、豆腐の汁物を添ふべし。

  右の外[ほか]別法として、前の通りにした松茸を味醂と醤油とで下煮[したに]をしてお米へまぜてから再び味加減をして炊くのもあるが、この法は幾分か松茸の匂[にほひ]が無くなる。

▼毒虫…雑菌。
▼こわめ…ごはんを硬めに炊く。
▼豆腐の汁物…松茸にあたらないように一緒に出される喰べあわせ。豆腐は、きのこの毒を打ち消すと考えられていました。この食べ合わせは椎茸飯でも。
校註●莱莉垣桜文(2010) こっとんきゃんでい