御飯の炊き方百種(ごはんのたきかたひゃくしゅ)

はしがき
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椎茸飯

  椎茸は極上等[ごくじやうとう]のものを選ばねばならぬ。伊豆の山で秋から寒中[かんちう]に出来る蝶花形[てふはながた]ならば至極結構であるが、若[も]し乾[ほ]したのならば暫[しばら]く之[これ]を水に漬けて軟かにする。また生ならばその侭[まま]で細く切って醤油と味淋[みりん]とで下煮をして、別に御飯の方へも能[よ]く味をつけて置いて炊きこむのである。この御飯は出来が上手だと、その味が美[うま]くて、大層食欲を増すものである。また別法としては、尋常[ただ]の御飯を炊いて飯櫃[おはち]に移す時に椎茸をまぜるのもある。これに豆腐の汁物を添へると味が美[よ]くなるばかりでなく、豆腐の蛋白質[たんぱくしつ]は、すべて茸類[たけるゐ]の毒をすひ取って一種の毒消し法となる徳用がある。

▼極上等…きわめてじょうとう。
▼寒中…冬。
▼豆腐…豆腐は、きのこの毒を打ち消すと考えられていました。この記述は松茸飯でも。
▼茸類…きのこのなかま。
校註●莱莉垣桜文(2010) こっとんきゃんでい