○不知火[しらぬひ]○▼古戦場火[こせんじゃうひ]
○▼青鷺火[あをさぎひ]○提灯火[ちゃうちんのひ]
○墓[はか]の火○火消婆[ひけしばば]
○油赤子[あぶらあかご]○片輪車[かたわくるま]
○輪入道[わにうどう]○皿かぞへ
○陰摩羅鬼[をんもらき]○▼船ゆう霊
○人魂[ひとだま]○川赤子[かはあかご]
○古山茶[ふるつばき]の霊○加牟波理入道[がんばりにうどう]
○雨降小僧[あめふりこぞう]○日和坊[ひよりぼう]
○青女房[あをにょうぼう]○毛倡妓[けじゃうらう]
○骨女[ほねをんな]
▼筑紫[つくし]の海にもゆる火にて▼景行天皇の御船[みふね]を迎[むかへ]しとかやさけば▼歌にもしらぬひのつくしとつづけたり
▼一将功なりて万骨かれし枯野[かれの]には燐火[りんくは]とて火のもゆる事あり是は血のこぼれたる跡よりもえ出る火なりといへり
▼青鷺の年を経[へ]しは夜飛[よるとぶ]ときはかならず其羽[そのはね]ひかるもの也[なり]目の光に映じ嘴[くちばし]とがりてすさまじきと也[や]
田舎などに提灯火とて畔道[あぜみち]に火のもゆる事あり名にしおふ▼夜の殿の下部[しもべ]のもてる提灯にや
▼去るものは日々にうとく生ずるものは日々にしたし▼古きつかは犂[すか]れて田となりしるしの松は薪[たきぎ]となりても▼五輪の▼かたちありありと陰火のもゆる事あるはいかなる執着の心ならんかし
それ火は陽気なり妖は陰気なり▼うば玉の夜[よ]のくらきには陰気の陽気にかつ時なれば火消ばばもあるべきにや。
近江国大津の八町に▼玉のごとくの火飛行[ひぎゃう]する事あり土人云むかし志賀の里に油をうるものあり夜毎に大津辻の地蔵の油をぬすみけるがその者死[しし]て魂魄[こんはく]炎となりて今に迷ひの火となれるとぞしからば油をなむる赤子は▼此[この]ものの▼再生せしにや
▼むかし近江国甲賀郡によなよな大路[おほぢ]を車のきしる音しけりある人戸のすき間よりさしのぞき見るうちに▼ねやにありし小児いづかたへゆきしか見えずせんかたなくてかくなん「つみとがはわれにこそあれ小車のやるかたわかぬ子をばかくしそ その夜[よ]女のこゑにて やさしのひとかなさらば子をかへすなり とてなげ入れけるそののちは人おそれてあへてみざりしとかや
▼車の轂[こしき]に大なる▼入道の首つきたるがかた輪にて▼をのれとめぐりありくありこれをみる者[もの]魂を失ふ▼此所[このところ]勝母[しゃうぼ]の里と紙にかきて家の出入の戸におせばあへてちかづく事なしとぞ
▼蔵経の中に初[はじめ]て新[あらた]なる屍[しかばね]の気変じて陰摩羅鬼となると云へりそのかたち鶴の如くして色くろく目の光ともしびのごとく羽をふるひて鳴声[なくこえ]たかしと▼清尊録にあり
ある家の下女[げぢょ]十の皿を一ッ井におとしたる科[とが]によりて害せられその亡魂よなよな井の▼はたにあらはれ皿を一より九までかぞへ十をいはずして泣叫ぶといふ此[この]▼古井[こせい]は▼播州[ばんしう]にありとぞ
▼骨肉[こつにく]は土に帰[き]し魂気[こんき]の如きはゆかざることなしみる人[ひと]速[すみやか]に▼下がへのつまをむすびて招魂[せうごん]の法を行[おこな]ふべし
▼西国または▼北国にても海上の風はげしく浪たかきときは波の上に人のかたちのものおほくあらはれ底なき柄杓[ひしゃく]にて水を汲[くむ]事ありこれを舟幽霊といふこれは▼とわたる舟の楫[かぢ]をたえてゆくえもしらぬ▼魂魄[こんはく]の残りしなるべし
山川のもくずのうちのに赤子のかたちしたるものありこれを川赤子といふなるよし▼川太郎▼川童[かはわらは]の類ならんか
ふる山茶[つばき]の精[せい]怪しき形と化して人をたぶらかす事ありとぞすべて古木[こぼく]は妖をなす事多し
大晦日の夜▼厠[かはや]へゆきてがんばり入道郭公[ほととぎす]と唱ふれば妖怪[ようくわひ]を見ざるよし世俗のしる所也▼もろこしにては厠神[かはやのかみ]の名を▼郭登[くはくとう]といへりこれ遊天飛騎大殺将軍[ゆうてんひきだいさつしゃうぐん]とて人に▼禍福[くはふく]をあたふと云[いふ]郭登郭公▼同日の談なるべし
雨のかみを▼雨師[うし]といふ雨ふり小僧といへるものはめしつかはるる侍童[じどう]にや
▼常州の深山にあるよし雨天の節は▼影見えず▼日和[ひより]なれば形あらはるると云[いふ]今婦人女子[ふじんぢょし]▼てるてる法師といふものを紙にてつくりて晴[はれ]をいのるはこの霊を祭れるにや
荒[あれ]たる古御所には青女房とて女官[にょうくわん]のかたちせし妖怪▼ぼうぼうまゆに▼鉄漿[かね]くろぐろとつけて立まふ人をうかがふとかや
ある風流士[たはれを]▼うかれ女[め]のもとにかよひけるが▼高楼[たかどの]の▼れんじの前にて女の髪うちみだしたるうしろ影をみてその人かと前をみれば額[ひたい]も面[おもて]も一チめんに▼髪おひて目はなもさらにみえざりけりおどろきて▼たえいりけるとなん
これは▼御伽[おとぎ]ばうこに見えたる年ふる女の骸骨[がいこつ]牡丹の灯篭を携[たづさ]へ人間の交[まじはり]をなせし形にして▼剪灯新話[せんとうしんわ]のうちに牡丹灯記[ぼたんとうき]とてあり