外国白米と云っても産地に依[よっ]て一様には取扱はれない。各米質を異[こと]にするから、厳密に調査する時は夫[そ]れ夫[ぞ]れの扱ひ方を違へねば成らないが、市中の米屋で販売してゐる外米を、之[こ]れは何処[どこ]米、彼[あ]れは何処米と、一々指定しては売らないから、買ふ者の方では一般に外米、輸入米として一様に取扱ふ傾きがある。また之れは何処米であるかと、買ふ方で念を押しても売る米屋の方で、産地が明かでない場合には、夫[そ]れも十分な適切した扱ひ方も出来ない事になるのだ。
斯[か]ういふと甚だ面倒な訳であるが、例へば▼安南[アンナン]米は繊維が多い代りに蛋白質が第二位にある。▼柴棍[サイゴン]米は蛋白質が多いが、脂肪分が少いと云ふやうな、一長一短は何[いづ]れの外米にもある。左様[さう]して此の外米と一括して称してゐるのは、安南[アンナン]、▼暹羅[シャム]、柴棍[サイゴン]、蘭貢[ラングー](東京[トンキン])南京[ナンキン]等の産地であって、朝鮮米の如き台湾米の如きは、内地産のものと大差のない成分を含んで居るから、其の取扱ひ方も亦[ま]た大同小異に過ぎないのである。
処[ところ]で外米と称する安南、暹羅、柴棍、蘭貢、南京等の白米を一括して扱ふに何[ど]うすれば好[よ]いか、之れを内地米に混合して扱ふには何[ど]うすれば好[よ]いかと云ふ事は、最もお互の間に知り度[たい]緊急要点である。台所経済に最も急務なる場合である。若[も]し▼外白[がいはく]にして一般に人の嫌ふ臭気なく、味に於て内地産米に遜色あるとも、経済の点に於て贏[か]ち得るならば、水の低きに従ふごとく外白の需要を増加し、我々常食として之れを併食する事が出来るのである。然[さ]すれば臭気位は何でもなく去る工夫はある。炊いては殖えるし、価[あたひ]は極々安いから此の際[さい]力[つと]めて外国米を喰ひ習はさねばならぬ。
処[ところ]が外国米は不味[まづ]いと云ふに就ては理由がある。けれども其の成分、滋養量については内地の米と別に大した変[かは]りはないのであるから、安心して大[おほい]に食すべしである。今仮に三種の外国米に依[よっ]てその分析表を見るに、
水分 |
蛋白質 |
炭水化物(澱粉) |
脂肪 | |
安南米 |
十七.五一 |
七.一八 |
七三.三二 |
〇.五五 |
暹羅米 |
二一.六一 |
六.六七 |
七〇.二九 |
〇.四〇 |
柴棍米 |
十八.八〇 |
七.九一 |
七二.二六 |
〇.三二 |
こんな結果を数字に示してゐるのだ。之れに依て▼滋養分に大して変[かは]りのないことが十分証拠立てられるが、扨[さ]て味の悪いと云ふ点になると、素[もと]より原因は在って存するのである。外国米と一般に称して現時我が国に輸入せられてゐるものの産地は、悉[ことごと]く熱帯地方であって米粒の成熟が甚だ短期日の間に行はれて、その組織が充実しないのに基くのである。朝鮮米になると其の味の頗[すこぶ]る内地産出の米に似てゐるのは、気候が殆んど同一であるのと米種の同じであるのとで、其の味の相[あい]類するのであるは論を俟[また]ないことである。只[た]だ耕作の場所の異なるのと、精製の粗雑なのとに原因して、内地産の三等米に匹敵する米質と成り、▼小米か多く砂や小石が交[まじ]るので、一般より嫌はれる傾むきがあるが、小米や砂や小石やを取り去って了[しま]へば立派なものである。又台湾米であるが、台湾の気候は暑いところである。熱帯地の米が劣等であると同じく、暑熱[しょねつ]の為に仮令[たとへ]内地米の種を下[おろ]してもも収穫する所の米種は劣等たるを免[まぬ]かれない、一は耕作の拙[せつ]な関係も十分あるにしても、気候の関係から上等の米を得ることは困難であるのだ。
外国米は総[すべ]て小米が多いものだが、小米の出来るのは其の質が堅実で無いことを証明するのであって、質がつまり粗[そ]であるからだ。質の粗悪は一に乾燥の不良にも由[よ]る、要するに小米の多いのは大抵味の悪いもので、外国米の不味[まづい]のは以上が原因を成して居るのである。輸送の途中や、袋の臭気も幾分加味する。