御飯の炊き方百種(ごはんのたきかたひゃくしゅ)

はしがき
目次

もどる

台湾米に就て

  台湾米は一般に称する外国米と略[ほ]ぼ同一のものと思へば大差がないのである。滋養量に於ても一短一長はあるが、総括したところで一般に称する外国米より稍[や]や勝るものがある位である。何しろ台湾も内地と違ひ熱帯地産の物とほとんど異[ことな]らない径路は有[いう]し、小米[こごめ]も多量に含有して居るから、米質の粗悪は自然的に証明されて居るのだ。

  此の米を御飯に炊くには、外国米を取扱ふのと同じ程度を以て扱へば、大いなる間違ひが無いのである。

▼滋養量…カロリー。
▼小米…砕けたおこめ。

磨ぎ方

  水にて磨ぐのと、温水[ぬるまゆ]にて磨ぐのと二様[やう]がある。之[これ]も他の外国米と同じく余り強くゴシゴシ磨ぐと、小米を多くするから成るべく静かに磨がねば成らぬ。小米が多いと御飯に炊いて後[のち]、ジクジクする傾きがあって、夏季から秋の初めに掛けて兎角[とかく]腐敗を速める虞[おそ]れが多いので、水で磨ぐ時十分の注意を払はねば成らない。

  だから温水[ぬるまゆ]で磨ぐ方が、速く濁水も澄みて小米に成る虞[おそ]れも少[すくな]い。余り烈しく掻廻[かきまは]し掻廻しすると素[もと]より脆[もろ]い性質であるので、粒が砕けるから御飯に炊いて、いよいよ不味[まづい]飯が出来る。又この種の台湾米、殊に始めより小米の多量にあるものは、他の米のやうに熱湯に浸して磨ぐのは宜しくない。

▼濁水…おこめをといだ時に出る白い水。

磨ぎ方

  水加減また火加減等は、外国米の例に依[よっ]て炊くのが宜しい。此の米には成るべく餅米を混合して炊くとねふっくりした御飯が出来て、其の味も之れに由[よっ]て美味[おいし]く喰[た]べられる。内地産の御飯に比べては劣るが、外国米に比べては勝るとも劣ることはは無い。

  其の交[ま]ぜる割合は、台湾米五合に内地米四合、それに餅米一合を加へると、外国米の七三、即ち内地米の七合に外国米三合位交[ま]ぜた程度に適合する得な炊き方である。

  炊き方は水から煮沸[しゃふつ]させる遣り方よりも、湯を沸騰させて置いて台湾米を先[ま]づ、グラグラ煮立つ湯の中へ入れ、一旦軽く掻きまはしおき、夫[そ]れから内地米の洗米[あらひまい]を入れて炊くと、一番能[よ]く御飯が出来て炊き損じることは殆ど無い。

▼洗米…とぎおわったおこめ。

うつし方

  普通の順序を経ていよいよ御飯が炊きあがつたら、念入りにむらし置き、之れを御櫃[おはち]にうつす一段になったならば、釜の中で能[よ]く御飯を掻廻し上下[うへした]に廻転させおき、手早く御櫃[おはち]にうつすが好[よ]いのだ。

▼御櫃…ごはんを入れとく木製の桶。おひつ。

うつし方

  台湾米の御飯は他の外国米の御飯と同じく腐敗し易い、殊に米質に於ては一層腐敗の速度が早いから、酢を一升の御飯の内なら約三勺ほどの割[わり]に入れるも好[よ]い。

  また一法として味噌を小さな団子二個[ふたつ]ほど入れるも好[よ]い、併[しか][すっ]てない味噌にはカスがあって、御飯の中に豆の形が残ることがあるから、漉味噌[こしみそ]といふ磨潰[すりつぶ]してあるものの、辛味噌を小団子の一個[ひとつ]半ほど入れて炊くと、腐ることが遅くして且つ臭みの悪いのも防げる。其の代り御飯に少し色が付き、白色の潤む場合もある。

  又一法として御飯をうつす時、御櫃[おはち]の周囲[まはり]に酢を浸しておけば、防腐になると云ふ説もあるが、之れは余り効力がないやうであると、或る実験家より聞いたから、矢張り酢を入れて炊くか、味噌を入れて腐敗を防ぐに好[よ]いのだ。

  右に示せるは一般外国米に付[つい]ての注意なるが尚[な]ほ内地米の炊き方、麦飯、玄米飯、粟飯[あはめし]、其他親子飯[おやこめし]、松茸飯[まつたけめし]などは「御飯の炊き方百種」にあり、付[つい]て参考せられたし。

▼磨ってない味噌…味噌は大豆や麹のかたまりの状態で売られていたので、使う分だけすり鉢などでキチンとつぶしてから使っていました。
▼漉味噌…現在お店で売ってるみそはコチラ。
校註●莱莉垣桜文(2010) こっとんきゃんでい