御飯の炊き方百種(ごはんのたきかたひゃくしゅ)

はしがき
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鮪飯

  これは羊羹[やうかん]のやうな鮪[まぐろ]の上肉[じゃうにく]を選ばねばければならぬ。その仕方は、鮪を五分四角ぐらゐに切って、別に味淋[みりん]一杯、酢一杯、醤油一杯の三色[さんいろ]を、能[よ]く煮つめて火から卸[おろ]した時に、前の鮪を入れて蓋[ふた]をして蒸らすのである。そして別に山葵[わさび]の卸[おろ]したのを、その中へ沢山[たくさん]入れてかき廻すのである。それから炊き立ての御飯へ、刻み葱[ねぎ]、焼海苔[やきのり]、紅生姜[べにしゃうが]などの薬味[やくみ]を載せて、前の鮪を汁ともに掛けるのである。美味とするには、山葵を十分入れて能[よ]く利[き]くやうにすることである。

▼羊羹のやうな…イイまぐろの身に対して使われていた表現。濃い赤色をした赤身のこと。あぶら身の多い部位などはまだ食べられてなく、好まれだすのは大正時代のおわりから昭和のはじめ頃にかけてで、『古渓随筆』(1926)には「鮪のトロ身を愛用する人などは」などという語がみられます。
校註●莱莉垣桜文(2010) こっとんきゃんでい