市内此[この]業者の最も旧家と称するは、日本橋大門通の佐藤四郎兵衛方にて、同家は其[その]昔まだ▼吉原が同所にありし頃、大門外にて営業を為[な]し居たりきと云へば、彼[かの]▼明暦の大火以前よりの店なる事を知るべく、又目下大店[おほみせ]ともいふべきは、江戸橋会津屋大門通り浅井半七森田三兵衛等にて、刃金[はがね]専門は石町[こくちゃう]伊坂佐兵衛なり。
一概に金物屋と云[いっ]てもいろいろ種類あり、地金屋[ぢがねや]は鉄銅、鉛、真鍮等を取扱ひ、刃金屋[はがねや]は刃物一切、赤物屋[あかものや]は銅一切、つぶし金屋[かねや]は▼古金一切、輸入金属屋は▼洋鉄丸釘[やうてつまるくぎ]鋲[びゃう]ネヂ家具粧飾品器物屋は▼神仏金具花瓶[くわびん]薬缶[やくくわん]等建築品屋は凡[すべ]て家屋の工業品を販売す。さて其[その]資本金は大店[おほみせ]となれば四五万円以上限[かぎり]もなけれど、通常一万円以下千円位にて店に成行[なりゆ]くものなり。
鋳物[いもの]は▼武州川口より出[いづ]るを最[さい]とし、其[その]原料日本ヅク(和鉄あら金[がね]也)洋ヅク(洋鉄也)を用ひ、洋六和四ぐらゐに交[まぜ]て鋳るものなり、鉛管[えんくわん]鉄管[てつくわん]は重[おも]に▼英米二国より輸入し、細物[ほそもの]には和製もあり。
は四五六月と十、十一、十二月にして、他の月は概して閑散なるもの也。
輸入品屋は三四割ぐらゐの利益あり、これらは室内の粧飾品にして、地金は余り利なけれど、外国と約定[やくぢゃう]せし内▼相場の変動にて時に利を見る事あり、惣じて地金工業品建築用品等は一割乃至[ないし]七八分の口銭なり、神仏金具などは一寸[ちょっと]利益あるが如くに見ゆれど需要少く、地金工業品のやうに売高[うれだか]なければつまり同様の利にて、洋鉄丸釘などは、利益薄けれど、纏[まと]まりての販路なれば商売としては面白きものなり。