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当世故事付選怪興(とうせいこじつけせんかいきょう) 01-10


(01-10)
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腹[暴+皮] [はらっふくれ]

金々山[きんきんざん]の精神[せいしん]太平楽[たいへいらく]の瑞[ずい]に顕[あらは]歌舞の音曲を好み四方[よも]の酒をぐゐ飲[のみ]にし北国[ほっこく]へくゐ行[いき]に飛行[ひぎゃう]す其[その][わし]る音[をと][ほう]のごとし是[これ]を世の通りものと云ふ

▼金々山…おかねがたっぷりある。
▼歌舞の音曲を好み…歌舞伎が好きだ。『山海経』に出て来る神様「帝江」の解説にある「是識歌舞」を引いたものか。
▼北国…お江戸の北。吉原のこと。歌舞伎と並ぶ江戸の二大悪所。
▼鵬…世界一大きい図体をしてるともいう鳥。
▼通りもの…通人。

万[萬+虫] [はんぱち]

飛んだことひきどり(琴引鳥ハウノノ一名也)山に入[いり]化してうそっ蜂[ぱち]となる蜜を千みつと云ふ偶[たまたま]これを得て甞[なむ]れば嘘八百年の齢[よわひ]をたもつなをとしを経[へ]万蜂[まんぱち]と成る羽[は]茶羅[ちゃら]の文[もん]あり鳴く声きびしくして鉄砲[てっぽう]

▼ウノ…「ウソノ一名」の誤字。「琴引鳥」は鳥の「うそ」の異名です。
▼うそっ蜂…「うそつき」を意味する「うそっ八」と「蜂」のぬえ合成。
▼千みつ…千蜜。千に三ッしか本当のことを言わないという意味で「うそつき」のこと。
▼嘘八百年の齢…「嘘八百」と、「人魚」などを食べた時にのびるという八百歳をかけたもの。その薬効はやはりまゆつばもの。
▼万蜂…万に八ッしか本当のことを言わないという意味で「うそつき」のこと。
▼茶羅…いいかげん。ちゃらっぽこ。ちゃらい。
▼鉄砲…「鉄砲うつ」は「うそをつく」の意味。

[番+鳥]黒足 [ばんくろあし]

そのかみ寛平法皇御悩[ぎょのう]の時竈将軍[かまどせうぐん]宿直[とのい][あり]ける夜[よ]御殿の上に舞下[まひさが]りたる闇雲[やみくも]の中より大ドロドロにてぬっとさし出[だ]したるその足黒き事[番+鳥][ばん]の羽色[はいろ]のごとくなれば此名[このな]あり

▼そのかみ…むかしむかし。
▼御悩の時…おびょうきづかれた。
▼竈将軍…御所で「ぬえ」を射おとした源頼政のような武士を意識して登場させたもの。本来の意味は「家の中では立派な態度のおかた」。うちべんけい。
▼大ドロドロ…芝居で鳴らす太皷の音の一ッ。妖怪や幽霊の出るときなどに使われます。
▼[番+鳥]…真っ黒い羽の水鳥。

親璧 [おやだま]

これ金の塊[かたま]り也この玉享保十四の冬市村芝居中むら新五郎(慶子[けいし]父也)初舞台の時[とき]井筒[ゐづつ]の中より小詰[こつめ]の幽霊顕[あらは]れ幽[かすか]なるたましゐ飛[とび]しが今は十五城にも易[かへ]がたき名玉[めいぎょく]となれり凡[およそ]戯場[しばゐ]の徒[と]化物ならずといふことなけれども此[この]玉をもて親とす

▼享保十四…1729年。
▼市村芝居…市村座。
▼中むら新五郎…中村新五郎。歌舞伎俳優。享保十四年の市村座では『長生殿白髪金時』に出演しています。
▼小詰…その他おおぜい、な俳優。
▼十五城にも易がたき名玉…『史記』にある完璧なる名玉「和氏璧」の価値をたたえた「秦昭王請以十五城易之」を引いたもの。
▼戯場の徒…俳優たち。

青二才 [あをにさい]

産女[うぶめ]の抱[だき]し赤子[あかご]ひととなりて青二才となる地蔵の小額[こびたい]野暮[やぼ]大髻[おほたぶさ][おもて]に面皰[にきび]ありて声替[こへがは]りし部屋住[へやずみ]の不自由を鳴く

▼産女…お産のときに死んでしまった女がこれになるとも言われているおばけ。抱いている赤ン坊を「だいてやってください」と渡して来ます。
▼ひととなりて…成長して。
▼大髻…ちょんまげの元結の部分を大きく大きくはり出させた形の髪型。
▼面…かお。
▼部屋住…実家住まいの若い武士。(柳多留「部屋住を四五人連れて茶屋へ出る」)

鼠鬼女 [ねづみきじょ]

加持[かぢ]の札[ふだ]を持たる者へは障気[しゃうげ]をなさず札なき者へははり込[こみ]の毒気[どくき]を吐く

▼加持の札…寺院や神社のおふだ。ここでは鼠木戸(芝居小屋の木戸)に入場するときに必要な木戸札のこと。
▼はり込み…わるぐち。

腥坊主 [なまぐさぼうず]

汝元来芋っ掘[ほり]むかしは医者と化[け]茶道[さどう]とばけ上品[じゃうひん]品川下品[げひん]いろはに来[きた]り君ゆへにこれまであらはれゆで蛸[だこ]なりなどいひしが今は其[その]すがたにも変ぜず坊主あたまを振[ふり]たてて正体を顕[あらは]し来[きた]るホンニあんまりむしがエエ

▼芋っ掘…山の芋を蛸がとりに来る、という鳥羽絵の画題にもなっている俗説を引いたもの。
▼医者…僧侶が遊里にでるとき、医者の格好によそおって出たことから。
▼茶道…お茶の宗匠。前記の医者と同様のこと。僧侶、医者、茶道、いずれも当時は頭をまるめているのが通常の髪型。
▼品川…品川の岡場所は吉原に並ぶ遊里。
▼いろは…いろは茶屋。谷中にあった岡場所。

洟ッ垂 [はなったらし]

色青ざめ青漆[せいしつ][はな]をたらす鼻の下に二本棒ありこれを筋夢中の夢中筋といふ余り[姦+干][たはけ]なりとて近年化物の中間[なかま]を外[はづ]されいよいよ魔抜[まぬけ]となる

▼洟…はなみず。
▼二本棒…鼻水が両の鼻の穴から出てる様子をいったもの。はなたれやろう。
▼筋夢中…年がら年中それに夢中という意味の「すじ夢中」とはなみずの通りすじの「筋」のかけことば。
▼余り[姦+干]…あまりにもおばかちん。
▼魔抜…妖魔の仲間連中から抜きました、と「間抜け」のかけことば。

花左鬼男 [はなさきおとこ]

はなの先へ花咲おとこあらはれてけふここの屁に匂ひぬるかな鬼神[きしん]も感ぜしむるは和歌の徳とかや此哥[このうた]馬鹿所[ばかどころ]放屁[ほうひ]に預[あづか]

▼花咲おとこ…花咲男は江戸などで興行をしていたおならを自在に鳴らす芸をしていた男で、それを妖怪に仕立てたもの。
▼けふここの屁に…『百人一首』にもある伊勢大輔の和歌「いにしへの奈良の都の八重桜けふ九重に匂ひぬるかな」を引いたもの。
▼鬼神も感ぜしむる…『古今和歌集』の序にある「目に見えぬ鬼神をもあはれと思はせ」を引いたもの。
▼放屁…「褒美」の地口。

笠守仙女 [かさもりせんぢょ]

よいこめの団子は此[この]一人にとどめ花よりもと人うつつをぬかしたり残るは土の喰へぬ子どもら其[その]よいこめの目もと思ひ出すも凄い

つぎへ

▼こめの団子…谷中の笠森稲荷では願掛けの時に土の団子をそなえて、願がかなったら米の団子をそなえるのがならわしでした。
▼人うつつをぬかしたり…この本が発売される5年くらい前、笠森稲荷の茶店に出ていたお仙という少女の美貌に江戸の男どもがとろかされていました。

校註●莱莉垣桜文(2011) こっとんきゃんでい