×

[PR]この広告は3ヶ月以上更新がないため表示されています。
ホームページを更新後24時間以内に表示されなくなります。

当世故事付選怪興(とうせいこじつけせんかいきょう) 31-40


(01-10)
(11-20)
(21-30)
(31-40)
(41-50)

もどる

晩河童 [ばんかっぱ]

[さる]おやしきの玄関番の番合羽[ばんかっぱ]飛んで赤羽の川へ入[いり][け]して河童[かっぱ]となり神明[しんめい]近ければ陰馬[かげま]の尻を覘[ねら]ふとなむ

▼番合羽…桐油紙などで出来た雨がっぱ。
▼河童…川などに住んでいるというおばけで、ひとや牛馬を水底に引っぱり込んだりすると言われています。
▼神明…芝の神明前。寺社の門前にある盛り場として浅草などと並ぶ場所で、かげま茶屋が多くあったことでも有名。
▼陰馬…蔭間。かげま茶屋につとめてる若衆たち。

太申 [おほさる]

[すぎ]し頃は頻[しきり]に沙汰[さた]せしがこのほど人いひやむいづれの深山[みやま]にや今は住むならんと独言[ひとりごと]のあたまの上[うへ]雲中[うんちう]に鬼[き]有て笑ふ其[その]わらふ声ヒヒ

▼人いひやむ…言い止む。うわさにのぼらなくなった。「伝九郎染め」という「太申」の文字を染め出した模様の流行りが廃れて来たことを採ったもの。
▼ヒヒ…あやしい笑い声の「ヒヒ」と、山の中などに出ると言われていた大きな猿のような姿のけだもの「狒々」のかけことば。

舟夕来 [ふなゆふらい]

[よ]ごと夜ごとに永久橋の波に顕[あらは]れ見へたるぞや苫[とま]の小口[こぐち]亡者の額紙[ひたいがみ]の形[なり]にして火鉢の妙火[めうくわ]さっても[ぬっ]たりの温飩[うどん]の粉[こ]を照らし饅頭[まんぢう]の肌を見世[みせ]びらかす寄[よる]なみの音にひびきたるぽちゃぽちゃのお千代も今は北[亡+おおざと][ほくぼう]の塵[ちり]

▼波に顕れ見へたる…船のまわりに現われて船の動きを止めたり沈めたりする「船幽霊」に、船の上で営業をする私娼の「船饅頭」をぬえ合成したもの。『怪談摸摸夢字彙』(1803)の「船幽霊」も同様。
▼亡者の額紙…死んだひとの頭につけて三角形のぼうし。
▼塗たりの温飩の粉…船饅頭などの私娼がつかっていた、おしろいではなくてうどん粉を顔に塗って白いお化粧をしていたことを言ったもの。
▼饅頭の肌…船饅頭のおはだ。
▼ぽちゃぽちゃのお千代…名前の知られた船饅頭のひとり。おなじころ書かれた万象亭の『太平楽巻物』の「阿千代之伝」の題材などにもなった評判女。
▼北[亡+おおざと]の塵…土にかえる。この世を去っていくとせぞ。

木葉点者 [このはてんじゃ]

もとは鞍馬山宗匠坊の執筆[しゅひつ]たりしが高慢のみにて其業[そのわざ]うときゆへ月花の定座[じゃうざ][すは]らず流浪[るらう]して飛びありく鼬[いたち]にはちと毛のはへた貂者[てんじゃ]

▼宗匠坊…鞍馬山に住むという天狗「僧正坊」と、俳句の「宗匠」のかけことば。
▼其業うとき…技術はそうでもない。
▼貂者…ひとを化かす動物のひとつとも言われていた「貂」と、俳諧の「点者」のかけことば。見出しにある名前は「天狗」と「点者」のぬえ合成。

飛茶釜 [とびちゃがま]

むかしは四ッ目ありし怪物[ばけもの]の抱[かか]なりしが其所[そのところ]を去[さっ]東叡山下[とうゑいさんか]仏店[ほとけだな]の裏に出浅黄[あさぎ]うらどもの腰銭[こしぜに][ざる]を廻[まは]さずして〆[しめ]のち艮[うしとら]のかた浅草御堂前[あさくさみどうまへ]へ飛行[ひぎゃう]し今は行所[ゆくところ]を不知[しらず]もし是[これ]館林[たてばやし]の茂林寺[もりんじ]へや行[ゆき]けん

▼四ッ目ありし怪物の抱へ…四ッ目の怪物というのは、吉原の妓楼のひとつ「四ッ目屋」を引いたもの。はじめは吉原の遊女だった、という事。
▼東叡山下…上野の山下。下谷。
▼仏店のうら…仏店は下谷一丁目のあたり。上野の広小路にあった茶屋の看板娘「お筆」は、もと吉原の遊女でした。
▼浅黄うらども…各地から参勤交代で出て来た田舎武士ども。
▼浅草御堂前…前のふたつ同様、「お筆」の異動を記したもの。
▼館林の茂林寺…「文福茶釜」の昔話で有名なお寺。「お筆」のあだなが「茶釜女」だったことから引いたもの。

無腰入道 [むこしにうどう]

[そもそも][これ]は侍[さむらひ]の化物也こころの角[かど]は取れねども丸こしに成らんを楽しみ非番の傍輩[ほうばい][さそ]ひ合[あい]茶屋へ来る時[とき]山寺のや春の夕ぐれにもあらずと随分しゃれた所がやっぱり手鼓[てつづみ]のヤアハア又参って候と鳴り込むあたまの萌黄頭巾[もへぎづきん]ぐすとかぶった所は毛があるやらないやら

▼丸こし…大小の刀を腰にさしてないこと。この「無腰」と「見越入道」をぬえ合成させたのが見出しの名前。
▼楽しみ…吉原など、遊里で店にあがるとき武士は入り口で刀を預けたので、丸腰無腰というのはそういう所へ遊びに行くということ。
▼傍輩…同僚の武士。
▼山寺のや春の夕ぐれ…能因法師の和歌「山寺の春の夕ぐれ来て見れば入相の鐘に花ぞ散りける」を引いたもの。
▼鳴り込む…わいわい騒ぎながら入ってくる。
▼ぐす…ずらりとみんなが。
▼毛があるやらないやら…みんな頭に浅黄頭巾をかぶってるので入道坊主の一団体が来たみたいにも見えるョ、というくすぐり。

陰婦 [ゐんふ]

男子[なんし]と見れば嫌[きら]ひなく[くら]ひつく[この][ばけもの]毛沢山[けたくさん]不掃寺[ぶそうじ]卵塔場[らんとうば]より出[いづ]るよし但[ただ]し不掃寺[ぶそうじ]臍下宗[さいかしう]なり

▼喰ひつく…いただいちゃう。あちこちに男をつくる「淫婦」を妖怪めいた字にこしらえたもの。
▼毛沢山不掃寺…お手入れせずに体毛が濃い目なのね、ということを寺院の名前めかしてつくったもの。俗に毛の生えるのが早い、多いは淫乱、と言われてるものを引いたもの。
▼卵塔場…はかば。
▼臍下宗…おへそのした。

蛇爺 [へびぢい]

[しわ]むし[け]して蛙呑[かはづのむ]蛇爺[へびぢい]となり四文銭を八文に脱[は]がし爪に火をともす[のち]は夢を喰ふ獏々爺[ばくばくぢぢい]となる

▼吝むし…吝虫。けちなひとをさすことば。
▼蛙呑蛇爺…「蛙のむ蛇」は蛇がまるのみをするところから「よくばり」なこと。
▼四文銭を八文に脱がし…1枚の四文銭を半分にはがして2枚にしたいほどのしみったれ。
▼爪に火をともす…あかりの代金もきりつめる程のけち。
▼獏々爺…おいぼれを意味する「ばくばくじじい」と、夢を食べると言われていた大陸の獣「獏」をぬえ合成したもの。

闇魔 [あんま]

赤貝馬[あかがいむま]切禿[きりかぶろ][また]は天窓[あたま]に瘤[こぶ]田舎座頭[いなかざとう]とと化[け]仙台浄留[じゃうる]四天王を誑[たぶら]かせしもみな土蜘蛛[つちぐも]の所為[しょゐ]なりその変化[へんげ]にはあらずして[めくら]地廻[ぢまは]りに不恐[おぢず][あぢ]のすんしの跡[あと]より針の療治と呼[よば]はっての一鬼夜行[いっきやぎゃう]土蜘[つちぐも]も化[ばけ]るに少し痃癖[けんへき]ならん

▼赤貝馬…赤貝の貝がらにひもを通して、足にはいて乗る子供のおもちゃ。
▼切禿…おいらんの下で働く小さな女の子。
▼田舎座頭…前の切禿もこの座頭も、浄瑠璃などの「土蜘蛛」が出て来る作品で「土蜘蛛」が化けて出て来る姿の一ッ。
▼仙台浄留り…仙台浄瑠璃。
▼四天王…源頼光の四天王。「土蜘蛛」を退治する面々。
▼土蜘蛛…葛木山の土ぐも。源頼光を病気にして苦しめたことは『土蜘蛛草紙』などにあるもので、足利時代から能や浄瑠璃、歌舞伎などに描かれているもの。
▼盲地廻りに不恐…「盲へびに怖じず」のもじりかえ。「地廻り」は土地のごろつき。
▼鯵のすんし…流しのおすし屋さんの売り声。
▼針の療治…針治療の呼び声。座頭さんたちの仕事の一ッ。
▼一鬼夜行…ひとりで歩いてる「闇魔」を言ったもの。
▼痃癖…肩がこる。

一ッ盲 [ひとつめくら]

[うま]れながらにはあらずして眼[まなこ]はひとつ人に非[あら]ずして名は関右衛門[せきへもん]仙台萩[せんだいはぎ]の中を住所[すむところ]にせしとなり

つぎへ

▼関右衛門…関取の白川関右衛門。1769年、稽古中に足に負ったケガから起きた破傷風が原因で死去しているので、この本が書かれた時点で既に故人。
▼仙台萩…仙台。「白川関右衛門」と「白河の関」の縁語から。
校註●莱莉垣桜文(2011) こっとんきゃんでい