牡蠣[かき]の新鮮[あたら]しいのを選ぶことが最も肝要である。それに注意すべきは、大きな牡蠣は周囲[まはり]に薄黒いベラベラしたのを切り捨てないと、渋味が出て悪いし、また時によると中毒に罹[かか]ることもある。その炊き方は、まづ牡蠣を割出[わりだ]して、殻の入らないやうに能[よ]く洗って置き、▼割出し水を捨てずに、之[これ]を馬尾篩[すいのう]で漉[こ]して、それから▼炊水[しかけみづ]に和して平常[いつも]のやうに御飯を炊いて、それが煮え立って吹きあがる時に、牡蠣を入れて能[よ]く蒸らすのである。これをするには、別に美味[おい]しい鰹節[かつぶし]の煮汁[だし]を拵[こしら]へて置いて、薬味には大根おろしに、刻み葱[ねぎ]、焼海苔[やきのり]の揉んだのや、卸[おろ]し山葵[わさび]などを、牡蠣の上へ載せて、前の煮汁[だし]をかける。また別法としては、▼桜飯[さくらめし]の吹き上がった処へ、牡蠣を入れてまぜるのもある。はじめから米の中へ牡蠣を入れて炊くと、牡蠣が縮[ちぢ]まって小[ちいさ]くなるばかりでなく、御飯に渋味がついてまずくなる。最初牡蠣を洗ふのは塩水でなければならぬ。