其次[そのつぎ]に出[いで]たるは▼雛店[ひなたな]の▼禿人形[かぶろにんぎゃう]の如きもの座中を白眼[にら]んで大胡座[おうあぐら]をかき水は直[すなを]にして東流し人の心は曲[まが]れるよりして其[その]形の写りがたきを恨むと言[いひ]ながら我も▼河童[かっぱ]と号して一方の▼化物大将にして水中[みづのなか]へ人を引摺り込[こむ]とは言へど目前に河童有り如何[いかん]となれば第一野夫[やぼ]な息子の紫服紗[むらさきふくさ]に▼子ノ曰[しののたまわく]を包んで後生大事と▼師匠様へ行奴[ゆくやつ]を▼石部金吉[いしべきんきち]で悪[わる]ひといつしか長歌[ながうた]の大とら本又は紅葉集[こうやうしう]も人柄[ひとがら]がよすぎるとて▼義太夫の抜本[ぬきほん]は大坂やが板行[はんこう]が克[よ]ひとて終[つい]に▼どんぶりの▼鼻紙袋を▼丸角[まるがく]へ誂[あつら]へさせ大坂雪駄[おほさかせった]変じてか▼やわた黒に履替へ夫[それ]がこふじて踊り子を鯲[どぜう]と覚える船の遊びが面白[をもしろく]すでに▼[舟+婁]船[ろうせん]を浮[うかめ]て▼汾河[ふんが]を渡ると漢の親玉も言[いひ]しとて帯の化物を見るやうな光る奴と霞を汲めば時ならぬ▼茂字喜久[もじぎく]も盛[さか]りにして大橋の梅裏[ばいり]が身振[みぶり]を詠[なが]むサァその仕舞[しまい]は表裏[をもてうら]の楼番[やぐらばん]も勤[つとめ]仕舞[しまい]裾[すそ]つぎは▼千種[ちぐさ]色で醒[さめ]やうが早ひと佃田[つくだ]の新四間[しんしけん]へ飛ぶ皆[みな]水辺[すいへん]よりして水際[みづぎは]の能所[よいところ]を引摺[ひきず]り廻るこれを河童とも▼河啌[かわうそ]とも言はん段々水練上達して喜奴太夫が浄瑠璃は荒御霊[あらみたま]を語た程有て面白ひの和重[わぢう]はどふ仕てもうれものと言[いふ]ことを覚へ▼向ふ島▼河西太郎[かさいたろう]に晒落[しゃれ]て生洲[いけす]の鯉には彼[かの]通力を得し仙人を素足[はだし]にし錦作りの差身[さしみ]では▼顔回[がんくわい]が瓢単[ひゃうたん]酒を底をはたかせ頂上へ登り詰て終[つい]に▼七生[ひちせう]の勘当に後生の道にも入らず乳母[うば]が在所の居候となりて一生の遊興を考へ初[はじめ]て河童に引摺りこまるることを知るまた小娘や後家の類も此[この]化衆[ばけしう]に逢[あふ]こと有[あり]その初[はじま]りは先[まづ]芝居を進め込み今日は▼東の三迄[まで]貸り切り翌日[あす]は▼人の目をこする時分から▼うづらでの見物むせうに笄[かんざし]の紋や娘が誹名[はいみゃう]を付きたがる様になると帰りには▼吉町[よしてう]へこける是[これ]我々が仲間は前後[まへうしろ]をねらふてくすぐると言[いふ]は此所也[このところなり]已[すで]に▼唐[もろこし]にても楚の▼范増[はんぞう]は▼項羽[こうう]に引摺り込[こま]れて▼張良[てうりゃう]が計策に落入る范増も楚は天下を取るまじきを知れどやせ我慢は貧から起[をこ]り一度[ひとたび]約束仕たから▼せう事[こと]がないとあきらめる今時[いまどき]何[なん]ぞそのやうな野夫[やぼ]なことを言[いは]んや娘を片付るとも姑[しうと]の少[すくな]ひ所抔[など]と己[おのれ]が方[ほう]から姑に不孝をさせる▼さんだん先頃堅く約束は仕たがあっちは小舅[こじうと]が多ふござると変替[へんか]へをなすうちに仲人[なこうど]がごねると▼閻魔様に舌を抜[ぬか]るる商売なれば早速聞出[ききだ]して千両屋敷が拾五ヶ所▼両替見せに酒見せ向ふの呉服見せも番頭の後見[こうけん]抔[など]と面白く言[いひ]かけ▼持参金が百両と言[いは]れて親父やる気になり妙義の神託[しんたく]大師様の御鬮[みくじ]とさわぎ立[たち]十弐文のをひねりで▼蓍[めとぎ]くり返させいづこも同じ言[いひ]ぶんなれば吉日を撰んで向ふへやった所が両替やは▼隣の内向ふの木綿店[もめんだな]も其通[そのとお]りこっちのうちは▼かけだをれのいざこざ商売の▼煮売[にうり]酒や娘は色盛[いろざかり]の過[すぐ]る時分まであまやかして育てそして▼振袖[ふりそで]も似合ぬと言所[いふところ]の嫁入なれば爰[ここ]を大事と▼貞女両夫不見[ていぢょりゃうふにまみへず]と言事[いふこと]を▼力弥[りきや]か下歯の様にあきらめ仲人に引摺り込[こま]れたも▼もっけの幸[さいわ]ひ是[これ]河童の惣元〆[そうもとじめ]とも名付[なづく]べし是に限らず▼無益[むやく]の殺生を好み▼巣立の鳥を取り張網[ひるてん]を張[はっ]て其[その]親鳥を〆殺[しめころ]しないし高はごを懸[かけ]て連[つらな]る鳥を待[まち]ぶせをなす何[なん]ぞ物を知る人のすることにあらん▼焼野[やけの]の雉子[きぎす]夜[よ]るの鶴子[つる]を思はぬはなきぞかし況[いはん]や物言[ものいは]ぬ鳥類を篭[かご]に入置[いれをき]て其[その]苦しみいかならんや雲井[くもゐ]遥[はるか]に飛行[ひぎゃう]なしけるを狭ひ篭の中に▼三光の夜飼は▼油火[あぶらひ]の費[つひへ]を厭[いと]はず人柄[ひとがら]ぶる者は釣[つり]を好み網を引きて楽[たのし]みとす朝早く霧霞[きりかすみ]を受[うけ]て疾気[しっき]を受[うけ]立釣[たちづり]を仕ては其骸[そのからだ]の冷[ひへ]ることを知らず▼大公望[たいこうぼう]が釣[つり]は周の助けとなる是は思案の有[ある]ことならんが今の世は夫[それ]を家職にする者は鳥を取[とれ]ども魚[うお]を釣[つれ]ども[魚+亶][うなぎ]やが[魚+亶][うなぎ]を裂[さく]に同じからんや慰[なぐさみ]に無益[むやく]の殺生をして短じかき脇差[ひこ]は小尻が兀[はげ]ても構はねど釣竿は黒く仕[し]て夕日に輝き▼餌[ゑ]さ箱の金物[かなもの]は鶴亀の有[ある]持仏様で光る▼夫[それ]がちと止めになると狆[ちん]を飼[かっ]て▼子を取り或[あるひ]は鼠を▼色々な色にして売買す鼠は昔[むか]しより鼠色なるを以[もっ]て通り名となりしを立派な箱に入[いれ]て是を売[うっ]て慰みの元手[もとで]とすなんぞ蟻の思ひも天へ上らば其罰[そのばち]を蒙[こうむ]らんや▼中頃までは▼新造より外[ほか]に鼠をば飼[かは]ぬもののやうでありしを松風[まつかぜ]の鬮[くじ]の飾り道具と成り▼石見銀山[いわみぎんざん]も是が為にお冷飯を喰ふ▼国に盗人[ぬすびと]家に鼠と譬[たとへ]しを箱に入れて買[かっ]て置くは▼盗人をとらへて見れば我子也[わがこなり]との言の葉あらん孔子[こうし]厩[むまや]焼[やけ]たるに馬を聞[きか]ずして人に怪我はなかりしやと問ひし人情の程[ほど]論語の端でも読[よみ]し者は一入[ひとしほ]慎しむべし▼鳩[はと]に三枝の有礼[れいあり]烏[からす]に反哺有孝[はんぽのこうあり]鷹[たか]の山に住時[すむとき]足のつめたきを厭[いと]はんと▼ぬくめ鳥をなし朝其鳥[そのとり]を中空[なかぞら]へ飛出[とびいで]て放すに其鳥[そのとり]東へ飛べば其方へ三日づつ行[ゆか]ずと聞[きく]また猛[たけ]き狼[をうかみ]も喰ひ殺せし獣[けだもの]を中秋[なかあき]に祭[まつる]と聞[きく]物言[ものいわ]ぬ鳥類獣類さへ如此[かくのごとし]人間なんぞ無益[むやく]の殺生を仕て鳥魚[てうぎょ]を苦しむそんなら[魚+亶][うなぎ]を買[かっ]ても喰[くわ]ぬか鯉鮒[こいふな]の味を知るまいと言[いふ]ならんか銭[あたい]を出して向ふの取[とっ]た物を買へば是は咎[とが]にならず親の目に精進[せうじん]すると言[いふ]も左の如し一がいに肴[さかな]を喰ふたとて▼由良之助[ゆらのすけ]が言[いひ]し如く判官殿が蛸に成[なる]まいし位[ぐら]いで仏の邪魔にもなるまいが夫[それ]わ免[ゆる]すと今の生[いき]た物を殺したがる無益の殺生をなす故也[ゆえなり]慈悲有[ある]人は▼鳥を放し▼[魚+亶][うなぎ]を放す其[その]川下に待[まち]ぶせして網を張る是を人界の河啌[かわうそ]とも言[いは]んか仏法にも▼殺生[せっしゃう]偸盗[ちうとう]と戒しめられたり釣[つり]すれども▼昌平卿[せうへいきゃう]の親玉も慰みに是をとりて遊べと教[をしへ]しや斯[かく]見破ぶると▼大道廃有仁義[だいどうすたれてじんぎあり]を悪く聞[きき]そこなふに同じからん畜生を飼[かっ]て▼畜生道へ導[みちびか]れ釣網を垂れて▼三途の川を游[およが]んより武ならば文武両道を心ざし夫[それ]相応の遊び有[ある]べし又▼博奕[ばくゑき]を打つより殺生の方が増しならんかとゆるしたら逃口上[にげこうじょう]だと云[いわ]ふが両様とも眼前▼河流れは河で果[はて]る諺も有[ある]ぞかし泥亀[すっぽん]に拝まれた晩に夜着のいらぬことも無し▼玉子酒を仕て呑んだとてその様に違ひもなし主命親兄[しうめいしんきゃう]の薬喰[くすりぐひ]抔[など]ならば格別法外の楽[たのしみ]をすることなかれ皆[みな]了簡違ひから起[をこる]ものなり其所以[そのゆゑん]は七月お寺から▼棚経が来るとやれ御前の御布施とさわぎ立[たち]▼陀阿[だあ]の御通りに宿鬮[やどくじ]をするやうに▼ののめけどもあれは若[もし]公[ををやけ]の御法度の宗門が有[あら]ふかと言事[いふこと]を改[あらため]に来る勘弁を知らず又頭痛のするにも▼百万扁[ひゃくまんべん]をくって若者[わかいもの]は横鉢巻婆々様[ばばさま]立[たち]も上着を脱[ぬい]で大汗に成って南無阿弥陀仏を高声にせり立[たて]少[ち]ときめ細かな小娘には大きなる数珠の総[ふさ]の廻って来るのをぶっ付[つけ]て少し斗[ばかり]の千話[ちわ]をなすを音頭の坊主も責念仏[せめねんぶつ]に成ると▼札[ふだ]をくり返す手の鬧[いそ]がしさ▼三段めの切りが引き入る様[やう]な所で落[をち]をとる役に立たぬものだから是を名付[なづけ]て河童の塩漬[しほづけ]と言[いふ]と笑ひながら消失[きへう]せけり
皆[みな]言[いわ]るる通り人間に▼化先生[ばけせんせい]多しと言[いひ]ながら出[いで]たるは手に▼羽扇[うせん]を持[もち]皃[かほ]赤く木の葉の衣に両[ふたつ]の翅[つばさ]生じ鼻高しと見ゆるは御神輿[おみこし]の先ばらいをする▼猿田彦[さるたひこ]とも言[いい]つべし是[これ]正敷[ただしく]▼天狗[てんぐ]ならめと思ひしに違[ちが]はず皆々の論に生じて我も天狗の申[まうし]ひらきを致さん先[まづ]浮世に▼侠[きゃん]と言ふ人柄者[ひとがらもの]生じて人を苦しむ其[その]有様[ありさま]を見るに夏冬かけて藍▼返しの三重染[さんぢうぞめ]茶返しの▼広袖[ひろそで]に細き丸ぐけを〆[し]め横の広き口の多く有[ある]下げ多葉粉入[たばこいれ]下駄は黒塗にして▼鏡の家と光るを履[はい]て何か片言交[かたことまじ]りの巻舌で。とほふとてつもなひ。なんのこったへ。をいらに借すめへ。コレヘ。▼夜盗[よとう]の上前[うはまへ]。▼嚊[かか]が下前[したまへ]を▼糠袋[ぬかぶくろ]にも仕て遣[つか]ふ男じゃねへぞ。コレ権八[ごんぱち]よしゃれ。▼つがもねへ。此[この]酒やが此[この]競[きをい]の。吉水[きっすい]是又[これまた]の。陣太皷様[てんつくさま]に借[かさ]ねへと言[いっ]ちゃァ。咄[はな]しを画[ゑ]に書[かい]て張付[はりつ]けあげたやうなこったが▼いごかねへと言[いっ]ちゃァ。お宗旨[しうし]の▼高祖日ねん様がござったら格別念仏無間禅天魔[かくべねつぶつむげんぜんてんま]▼草履隠[ぞうりかくし]じゃァ有[ある]めいし。居[い]ごかねへとっちゃァ。市谷[いちがへ]の河岸端[かしっぱた]に有る大きな黒石[くろぼく]が。▼池のはたに羽根を切られて思案も無く残[のこっ]た白鳥か。▼曽我のぎょろう時ぶねが前へ。へいった貧乏神かとほうもねへ▼狂言の様だが▼伊達[だて]が関[ぜき]が五人どりを仕たやうなもんだぞ。をいらはナ強[こは]ひ事といっちゃァ▼鉄砲玉のじゃきじゃき汁は。もふ[酉+(僕−にんべん)][かび]がはへて喰へねへから。▼弐朱銀の香の物に▼あぶりこの付焼[つけやき]鉄棒[かなぼう]を二ッに引っ裂ひて蒲焼[かばやき]に仕て喰[くっ]た男だぞ是[これ]見ろ▼七本卒塔婆[そとわ]に天霊[しゃれこうべ]だぞつねに▼うぬらが▼一刀三礼[いっとうさんれい]仕たとって御開帳[ごけいちゃう]はならねへ克[よく]おがみやァがれと言[いふ]うち。同気相求むる奴等[やつら]が来て連[つれ]て行きつまる所が酒屋から伴頭[ばんとう]のぶ調法で酒三升に鰹[かつほ]が弐本サァその酒を喰らいあばれ騒ぐ有様[ありさま]▼犬神人[つるめく]共が集[あつま]りて正月二日に興行する▼天狗酒盛[てんぐさかもり]とも言[いわ]ん酒が廻って来ると又喧嘩の口開[くちびら]きと成[なる]先[まづ]▼なり形を見よ晒[さらし]の手拭[てぬぐひ]は▼小人島[こびとじま]の褌[ふんどし]より長く拾遺集[しういしう]に▼玉川にさらす手作[たつくり]さらさらにむかしの人の恋しきやなぞ。と詠[よみ]にしさらしを勿体[もったい]なくも頬冠[ほうかむ]りになし髪は▼水髪[みづがみ]にかた▼いてう。とて銀杏[ぎんなん]でも生[な]れば魔除[まよけ]と成れど則[すなはち]此者[このもの]は▼魔道の根本[こんぽん]ならめ法に背き人にいやがられ湯を▼忠度[ただのり]で這入[はい]り廻り髪結[かみゆい]のちと▼才三[さいざ]。もどきに色男が廻りに成ると利鬼[けぢめ]て見たがる廻りも▼鬢盥[びんだらい]へ疵[きず]でも付[つけ]られるが損だから髪の壱ッも結[ゆっ]て遣るとサァをれはあいつを利鬼[けぢめ]て髪を結[ゆわ]せたと力む酒や質屋は元より▼無尽[むじん]の裏屋を尋ねて防ぎと号して是を贓[ゆたぶ]る終[つい]には天の責[せめ]に辛[から]き目に逢あい[]▼天の狗[いのこ]と成る能[よく]思ひ合[あは]せて見よ▼身体髪膚受父母不敢毀傷[しんたいはっぷをふぼにうけてそこないやぶらざるを]孝の始[はじめ]と教へられしにその体を煙管[きせる]でさへ捨[すたっ]た▼毛彫[けぼり]を彫り貴人高位が能[よ]きものなら召[めす]べきに大広袖を着し夫[それ]でも芝居でする▼清盛[きよもり]は大広袖を着ると言[いふ]で有[あら]ふが夫[それ]は作者の心持[こころもち]にて場を広く見せる趣意を知らず下々[げげ]なるもの塗下駄を履き高官の下駄[ぽくり]は金箔でも置[をか]んや▼評判記では無ひが【▼悪口言[わるぐちいひ]】沓[くつ]を見ろ中を錦で張[はる]ではないかと言[いふ]ならんが是は▼令義解[りゃうぎげ]と言書[いふしょ]に委[くはし]く有[ある]かく読[よむ]べし▼神事[じんじ]には大和錦[やまとにしき]仏事には河内錦[かわちにしき]と生駒山[いこまやま]を隔て織[をる]是[これ]陰陽[いんやう]の道理にして▼職原抄[しょくげんせう]等のむづかしきことなれば筆にもらず丸ぐけは女より外[ほか]に〆[しめ]まじきを是も夕部[ゆうべ]畠[はたけ]の▼女[あま]がのを無利に取って来たと力むやっぱり逢対[あいたい]の盗人[ぬすびと]也[なり]是此世[これこのよ]だから済[すむ]が未来でならぬ身持[みもち]だから我々が仲間是[これ]を戒めんが為[ため]四条院の御宇[をんとき]▼南都[なんと]の家々に▼未来不[みらいふ]の三字を書[かき]▼相模入道を踊らせたるも仏法最初の御寺より菊水[きくすい]の出るを知らせん為也[ためなり]人間の天狗となりてをれ程[ほど]強ひ者は無ひと言[いふ]と其鼻[そのはな]を捻[ねぢ]りて両の翅[つばさ]を羽階〆[はがいじめ]に逢[あふ]扨[さて]彼等[かれら]が仲間で大きな声で何[な]んぞ出来ると洗垢離[せんごり]を始め大天狗小天狗と呼[よば]るる迷惑静[しづか]に口の中[うち]で言[いっ]ても神を納受なさるべきを大きな声で鳴り騒[わめ]き末は水懸論[みづかけろん]を仕て声の枯れる程[ほど]騒ぐ煮奴豆腐[にやっことうふ]で酒を喰[くら]ひつまる所が▼湯やのけんひきと成るこいつらが脊中[せなか]に彫りし天霊[しゃれこうべ]の如く天窓[あたま]を▼本多[ほんだ]に根をてっぺんへ上げて結ふた色男も▼灯篭鬢[とうらうびん]▼結綿島田[ゆいわたしまだ]で多くの人に惚[ほれ]られた女も髪を天窓[あたま]へ噛[かぢ]り付[つく]やうな風[ふう]の男も表[をもて]は坊主で▼医者の真似を仕て女郎買[ぢょろかい]に歩行[あるく]摺子木[すりこぎ]も皆[みな]天霊[しゃれこうべ]と成ると同じ事是が色男是が色取り娘と分[わか]りもせねど侠[きゃん]となりて彼[かの]彫物[ほりもの]を仕た男は人も行[ゆか]ぬ原へ骸[かばね]を捨[すて]られて跡方[あとかた]もなく▼強[こわ]い犬の餌食と成る酒を呑んで酒に呑[のま]れ酒のさの字は酒屋のさの字と唄ふ誠に▼気違ひ水の渡し守となる女の茶碗酒を呑[のみ]少し人の肩に懸[かか]り帯も解[とけ]て▼二布[ふたの]のちらちら見ゆる様[ざま]何と是をどんな虫の能[よ]ひ▼久米の仙人に見せても通を失ふべきや男はくだらぬ事を言[勹+言][いひつの]りて▼樽拾[たるひろ]ひの調市[でっち]に▼箒木[ほうき]を立[たて]られ或[あるひ]は▼草台[ぞうり]に三升屋[みますや]の功能を見せしむ坊主の喰らひ倒[だをれ]は輪袈裟[わげさ]に衣を袖畳[そでだたみ]に仕て首へ懸[かけ]てしゃ枯れたお経声で帰るとは婚礼の忌詞[いみことば]でござります▼とと様の御手づから▼子安の守りを下されし初孫の皃[かほ]見せるのが孝行とをっしゃったのをよふ覚へてをりますると如意輪観音の様[やう]な有様[ありさま]▼生き如来のお宗旨でも有難みが薄からん▼秋風の吹[ふく]に付[つけ]ても穴め穴めと言[いひ]し▼提重[さげぢう]の小町を見よ薄[すすき]や茅[かや]の中の行倒[ゆきだを]れずいぶん侠天狗[きゃんてんぐ]とならぬうちに裏店[うらだな]又は博打者の子も▼瞽叟[こそう]が子に▼舜[しゅん]有るまま斯[かく]身持不埒[みもちふらち]の親を持[もて]ば其子[そのこ]としてはあの人の子には能[よ]ひ人柄[ひとがら]と誉[ほめ]られ給へ▼孔明[こうめい]去[さっ]て▼姜維[きゃうい]有れば其父[そのちち]の業界[きゃうがい]を受継[うけつが]んと思ふは天霊[しゃれこうべ]となりても行方[ゆくかた]なく人が腰を縮[こご]めるとをれが強ひからと思ふと大の了簡違ひなりと羽扇[うせん]に乗じて雲井[くもい]遥かに行方を見失[みうしな]ひぬ